1. 市場動向と価格急落

リチウムイオン電池(以下、LiB)の価格は2024年から2025年にかけて
「過去最大の下落幅」と呼べる急落局面に突入した。
パック平均価格は1kWhあたり115ドルへと20%も落ち込み、2017年以来の大幅値下げを記録したのである 。
その主因は①世界規模の生産能力ブーム、②リチウム塩など原料価格の沈み込み
③電気自動車(EV)販売構成の変化——という“需給トリプルパンチ”にある。
本節では価格・需給・需要構造の三面から最新データを読み解き、初心者にも分かるよう平易に整理する。
■ LiB価格は115ドル/kWh――数字で見る“底抜け”
- BloombergNEF調査によれば、2024年の平均パック価格は前年比20%安の115ドル/kWhと過去最低を更新した 。
- 下落を後押ししたのはLFP(リン酸鉄リチウム)比率の急伸で2023年には世界EV容量の40%超を占めた。LFPはコバルトやニッケルを使わず材料費が安い。
- EV向けだけでなく定置用蓄電システムにもLFPが流入し始め、価格弾力性がさらに高まった。
筆者考察: 115ドル/kWhは「普及の臨界点」と言われる100ドルまであと一歩である。
実売レベルでこの水準が続けば
家庭用蓄電池や商業施設のピークシフト用途が一気に採算ラインに乗る可能性が高い。
■ 原料相場の雪崩と“ギガファクトリー渋滞”
- 2025年6月時点で**炭酸リチウム現物価格はCNY 60,500/トン(約8,300ドル)**と4年ぶりの安値圏に沈んだ 。
- 供給サイドではCATLが2025年までに670GWhの生産能力を掲げるなど、各社が“造り過ぎ”の様相を呈している 。
- さらに米国だけでも2025年に160GWhの新設ギガファクトリー能力が上乗せされる見通しで、世界全体で供給過剰は2028年まで続くとの試算もある。
この「工場は増えるが需要は想定より伸び悩む」状況が
電池企業に在庫圧力と値下げ競争を強いる構図となっている。
■ 需要の“量と質”――EVブームは鈍化、普及は加速
- IEAのGlobal EV Outlook 2025は、EV販売が2025年に世界2,000万台を突破すると予測する。
- ただし成長源は中国やアジアの低価格モデルであり、メルセデスやポルシェといった高級EVは販売停滞が顕著になっている。
- 欧州でもEV販売増はわずか2.4%に減速し、複数のバッテリープラント計画が凍結・遅延している。
筆者考察: 台数は伸びても“単価の安いクルマ”へシフトしているため
セルあたり利益が削られる傾向が続く。
結果として電池メーカーはコストリーダー戦略とリサイクル投資の二正面作戦を迫られよう。
■ 価格下落はチャンスかリスクか
- 市場規模は2024年の1,178億ドルから2029年に2,217億ドルへ倍増する見込みで、依然として巨大である。
- 一方で**供給過多ゆえの“薄利多売”**となり、赤字覚悟のシェア争奪が続けば中小メーカーの淘汰は避けられない。
筆者考察: 価格崩壊を“悪”と決めつけるのは早計である。
低コスト化は再エネ蓄電やマイクログリッドを一気に普及させ
カーボンニュートラル加速装置として機能する可能性も高い。
鍵となるのは、各国政府が下落幅を逆手に取って蓄電補助金を拡充し
需要側を引き上げられるかどうかだ。
■ まとめに向けて
LiB価格の底抜けは、一見するとメーカーの“血を流す”消耗戦だが
エネルギー転換を加速させる歴史的転換点でもある。
次章では「全固体電池と改良型LiBの技術革新」を通じて
価格競争下で勝ち残る技術・企業を見極めていく。
技術革新の現状:全固体電池と改良型LiB 主要メーカーのロードマップと技術課題

2.全固体電池ロードマップ──「2026–27年が最速」
● トヨタ & パナソニック連合
- トヨタは 2026 年にパイロット生産を開始し、2027 年に全固体電池を実車投入すると公表した。充電 10 分で 80%、航続 1,000 km クラスを狙う。
- パートナーのパナソニックエナジーは 4680 円筒セル量産を 2024 年に開始し、全固体では硫化物系電解質を共同開発中である。
● 韓国勢:Samsung SDI & LG Energy Solution
- Samsung SDI は水原 R&D センターに 6,500 m²の“S-line”を稼働させ、2027 年の量産を目指す。目標エネルギー密度は 900 Wh/L。
- LG ES は「低ニッケル×高電圧」セルでコストと安全性を両立しつつ 2027 年以降に全固体へ段階移行する計画を示した。
● スタートアップ・欧米勢
- QuantumScape は 2025 年にギガワット規模のセパレータ生産へ“Cobra”工程を統合、Bサンプル出荷を完了した。
- 米 SES AI は「ハイブリッド Li-metal」セルで OEM と契約を進め、2025 年に 2170 量産ラインを立ち上げると発表した。
● 技術課題:界面抵抗とデンドライト
- 固体電解質と金属リチウムの界面は「化学反応層の膨張」や「物理的接触不良」が起こりやすく、抵抗増大を招く。
- 金属リチウムが樹枝状に伸びる“デンドライト”は短絡・熱暴走の原因であり、硫化物系・酸化物系いずれも完全解決に至っていない。
筆者考察:各社は量産時期を前倒しすると宣言するが
界面設計と量産歩留まりは実験室と工場で“別世界”である。
2027 年量産は「早くてもプレミアム車限定」というのが実情だろう。
改良型LiB:シリコン負極・高速充電・高密度化の三本柱
● 高エネルギー密度セル
- パナソニックの 4680 セルは従来 2170 比で容量 5 倍、コバルト使用量も削減し 2024 年量産を開始した。
- アメリカの Amprius はシリコンナノワイヤ負極で 450 Wh/kg、1,150 Wh/L のセルを出荷し、航空宇宙用途へ採用を拡大中である。
● シリコン負極量産の夜明け
- Sila Nanotechnologies はワシントン州モーゼスレイク工場を 2025 年上期に本格操業し、年間 2,300 t のシリコン負極を供給する計画だ。
● 急速充電 & LFP革新
- CATL の「神行(Shenxing)Plus」は LFP で 1,000 km 走行・4C 充電を両立、2024 年に発表済み。
- BYD は第2世代「Blade」電池でエネルギー密度+30%、最大 8C 充電をうたい 2025 年以降全車種搭載と報じられる。
- イスラエルの StoreDot は「100 in 5」(5 分で 160 km)を 2024 年の公開試験で実証し、2026 年量産を計画する。
筆者考察:既存LiBの改良テンポは「毎年エネルギー密度+5 %」レベルで進み
コストはリチウム価格次第で変動する。
全固体投入が遅れれば、シリコン負極+LFP高速充電のハイブリッド戦略が主流になると見る。
技術比較まとめ
技術 | 量産目標 | エネルギー密度* | 10→80%充電時間 | 主な課題 |
---|---|---|---|---|
全固体(硫化物系) | 2026–27年 | 400 Wh/kg 以上 | 10 分 | 界面抵抗、歩留まり |
4680 高Ni NCA/NMC | 2024 年 | 300 Wh/kg 前後 | 20 分 | コバルト削減、発熱 |
シリコン負極 LiB | 2025 年 | 350–450 Wh/kg | 15 分 | 膨張・寿命 |
LFP 高速充電 | 2024 年 | 200 Wh/kg 前後 | 5–10 分 | 低温性能 |
*社外公表値ベース。
小結と次章へのブリッジ
全固体電池は「安全性と超高密度」の究極解だが、量産歩留まりが最大のハードルである。
一方、改良型LiBはシリコン負極と超高速充電の両輪で 2030 年頃まで主力を維持するだろう。
日本勢は材料と製造装置で依然強みを持つが、LFP高速充電で先行する中国勢にどう対抗するかが鍵となる。
次章ではこの技術競争を後押しする「循環経済と政策ドライバー」を掘り下げる。
3.循環経済と政策ドライバー リサイクル最前線、各国規制・補助金の影響

サイクル産業の最前線
● 日本:J-Cycleが国内循環の旗手
2024年5月、三井物産は韓国Voltaiq傘下のBoltaなどと合弁で 株式会社J-Cycle を設立し
茨城県に年産2万t規模のブラックマス工場を立ち上げると発表した。
稼働は同年9月を予定しており、リサイクル原料の国内自給率向上が狙いである。
東京電力系の補助事業でも、定置用蓄電所12件に総額130億円が交付され
リサイクル材を含む国産セルの採用が優遇要件に組み込まれた。
● 北米:Redwood MaterialsとLi-Cycle
ネバダ州の Redwood Materials は2023年に米DOEローンプログラムから
20億ドルの融資コミットメントを獲得し、2026年までに年100 GWhの正極材生産体制を整える計画である。
同社は回収セルから98%以上のリチウム・ニッケル・コバルトを再生する湿式精製技術を公称する。
カナダの Li-Cycle はLGエナジーソリューションと長期供給契約を締結し
北米での“ハブ&スポーク”モデルを拡張中である。
● 中国:CATL/Brunpと国家ガイドライン
CATLは子会社Brunpを通じて湖南省と欧州に計100 GWh相当のリサイクル能力を計画し、一次資源依存低減を狙う。MIITは2024年8月の草案で、使用済みEV電池の総合利用率を95%以上とする技術指針を公表した。
● 欧州:規模拡大の壁
EU域内では30件超の回収プロジェクトが発表済みだが
エネルギーコスト高と資本不足により2030 年の需要200万台分を賄えない恐れがある。
● 技術トレンド
湿式(ハイドロ)法はニッケル・コバルト回収率95 %以上を実証し
乾式(ピロ)法より低温・低CO₂排出で優位とされる。
加えてリサイクル炭酸リチウムはバージン材より平均20%安価との報告もあり、価格競争力が高まっている。
各国規制・補助金ドライバー
● EU:電池規則 2023/1542
新規則は
- 2027年:リチウム含有廃電池の回収率 50%
- 2031年:リチウム再生材含有率 10%
- 2036年:上限を18%に引き上げ
を義務付け、違反製品は域内販売を禁止する。
● 米国:IRAとDOEローン
インフレ削減法(IRA)は北米製セルに最大45 ドル/kWhの生産税額控除を適用し、再生材使用分も対象に含める。 DOEは前述のRedwood案件など複数のリサイクル企業に低利融資を実施し、国内サプライチェーンを強化している。
● 日本:METI蓄電・バッテリー戦略
経産省は2024年度のバッテリー戦略で「2030年までに国内リサイクル能力28万t」を掲げ
総額2.4兆円規模の補助金を決定した。
またCEV補助金はEV1台当たり最大85万円を上限に継続し、再生材比率の高い車種を加点対象とする方針である。
● 中国:拡大生産者責任(EPR)強化
MIIT草案はメーカーに対し、販売量に応じた回収義務とリサイクル情報のトレーサビリティ公開を義務付けた。
市場規模・経済効果と残る課題
調査会社Markets & Markets は LiBリサイクル市場が
2024年162億ドル→2032年568億ドル に到達すると予測する(年平均成長率17%)。
別報告では2030年までに最大446億ドルとの推計もあり、いずれにせよ二桁成長が確実視される。
しかし、
- 低金属価格時にリサイクル材の採算が縮む価格リスク
- 相互承認が進まない国際認証スキーム
- 電池設計とリサイクル適合性(“デザイン・フォー・リサイクル”)
――など構造的課題は残る。
筆者考察:リサイクルにおける真の勝者は
「金属回収率×スケール×規制適合」を三位一体で実行できる企業である。
特に日本勢は湿式精製と自動車リース下取り網を生かし
“高純度再生材+製造装置輸出”の二階建てモデルでプレゼンスを取り戻す好機と見る。
次章へのブリッジ
循環経済と政策インセンティブが整いつつある今
企業戦略は「資源回収からプレミアム製品までの垂直統合」が鍵となる。
次セクションではCATL・BYD・パナソニック等の動向と2030年需要シナリオを比較し
勝ち残るビジネスモデルを探る。
4.企業戦略と2030年シナリオ CATL・BYD・パナソニック等の動向と需要・価格3シナリオ

■ 主要企業の現在地と布石
企業 | 2024~26 年の主施策 | 2030 年目標 | 主なリスク |
---|---|---|---|
CATL | ①LFP 高速充電「神行」セル量産②欧・米・東南アジアで“海外ギガ”新設 | 年産 1 TWh 超で世界シェア 35%維持を掲げる | 原料供給依存・米 IRA 認証 |
BYD | ②第2世代 Blade 電池(エネ密度+30%・8C充電)を 2025 年に全車種搭載 | 年産 600 GWh・自社 EV/ESS 両輪拡大 | 海外販路・ブランド認知 |
パナソニックエナジー | ③米カンザス工場で 4680/2170 セルを 2025 年量産(最大 30→88 GWh) | 4680 コアで 200 GWh 体制 | Tesla 依存・北米需要変動 |
1) CATL:低コスト+ハイペースで「規模こそ正義」
CATL は 2023 年に 259.7 GWh を出荷しシェア 36.8%で 7 年連続首位を死守した。
2025 年までに 670 GWh 能力を稼働させ、2030 年には 1 TWh 超へ拡張すると表明している。
コバルトフリーの LFP を主軸に、欧米の IRA/EU 規制回避のため“現地生産+現地調達”を徹底する姿勢である。
2) BYD:垂直統合で「コストと安全」の両取り
BYD は独自の Blade 電池で安全性とコスト優位を確立し
2025 年から 2 代目 Blade を全車種に投入すると発表した(エネルギー密度+30%、8C 充電)。
またモジュールレス構造を ESS 向けに転用し、定置用市場でも CATL と競合する計画である。
3) パナソニック:4680 で「高付加価値ニッチ」狙い
パナソニックエナジーは米カンザスで 4680 円筒セル量産ラインを 2025 年稼働し
エネルギー密度 300 Wh/kg 級の高単価ゾーンに集中する。
Tesla 以外の北米 OEM との契約拡大が鍵であり、円安と IRA 税額控除をテコに収益性を確保する戦略である。
筆者考察:規模追求型(CATL・BYD)と高付加価値型(パナソニック)の**“二極モデル”**が鮮明となる。前者は価格崩壊リスク、後者は需要鈍化リスクと背中合わせであり
リサイクル材の内製化や電池パスポート対応が共通の成否ポイントになる。
■ 2030 年需要・価格シナリオ(3パターン)
BloombergNEF は 2023 年平均パック価格 139 ドル/kWh から
2026 年に <100 ドル、2030 年に 70 ドル台へ低下すると試算する。
一方、政策後退が続く場合は下げ止まりもあり得る。
ここでは IEA Net Zero シナリオ(需要強気)と BNEF 下方修正(需要弱気)を組み合わせて三つのケースを描く。
ケース | EV 販売台数* | 電池需要** | 平均価格 | 想定条件 |
---|---|---|---|---|
A. 強気 | 4,000 万台 | 4.5 TWh | 70 $/kWh | IRA/EU 補助継続・金属価格安定 |
B. 中立 | 3,300 万台 | 3.7 TWh | 90 $/kWh | 中国需要堅調、米欧やや減速 |
C. 弱気 | 2,600 万台 | 3.0 TWh | 120 $/kWh | 補助金縮小・保護主義拡大 |
* 乗用+商用。
** EV+定置用合算(IEA データを基準)。
価格感応度
Wood Mackenzie は貿易摩擦下でモジュール価格が最大 25%上振れすると警告し、米国設備投資の遅延を示唆する。エネルギー貯蔵コストが 40%下がるという IEA 試算もあるが、政策後退がコストカーブを押し上げかねない。
筆者考察:実勢はシナリオ B と C の間を振動するとみる。
価格 1 $/kWh の上下で電池ビジネスの粗利が数億ドル単位で変動する。
企業は 為替・金属・関税 の「コスト三悪」をヘッジしつつ
シナリオ A のチャンスを見据えねば生き残れない。
■ 勝ち残り戦略のキーワード
- “現地製造+現地調達”
- IRA・EU 規則による税控除/関税優遇を最大化。輸送コストと炭素税も削減。
- リサイクル内製化
- Redwood Materials などとの連携で再生材 10%義務に先行対応。
- 高速充電+長寿命
- 高エネルギー密度だけでなく“充電 10 分・寿命 4,000 サイクル”が車載/定置双方の要件となる。
- 電池パスポート対応
- 原料追跡・CO₂ 量計測が B2B 取引条件化。先行整備が大手と中小の格差を決定づける。
■ 結論:2030 年の主役は“規模×循環”を制した企業である
価格下落が止まらない LiB 市場は、一見すると「血を流す消耗戦」に映る。
しかし筆者は “1 TWh 級の巨大メーカーがリサイクルと地域分散で勝ち残る” 未来を想定する。
CATL や BYD に続けるのは、現地生産+再生材+政策適合を最速でそろえたプレーヤーのみである。
パナソニックのような高付加価値戦略は、4680 の需要が想定外に伸びるか
北米 OEM が多様化すればシナリオ B で大きく花開く余地がある。
一方でシナリオ C に陥った場合、中小や新興は撤退・再編の波に吞まれるだろう。
最後のセクション「5. まとめ」では、本記事全体の要点を整理しつつ
読者が取るべき具体的アクションを示す予定である。
まとめ

リチウムイオン電池(以下 LiB)産業は
「価格急落」「技術多極化」「循環経済シフト」「巨大投資の二極化」という四重変革期に突入した。
平均パック価格は2024年に1 kWhあたり115ドルへ20%下落し
EV販売は2025年に世界2,000万台を突破する見込みである。
同時にEUは2031年までにリチウム再生材10%義務化を決定し
米国DOEはRedwood Materialsへ20億ドル融資を行うなどサーキュラーエコノミーを後押ししている。
本稿でたどってきた市場、技術、政策、企業動態を整理し、読者が取るべき行動指針を提示する。
市場:価格崩壊は“普及促進装置”
- 価格下落の主因――セル過剰供給と原料相場の雪崩が重なり、2017年以来の大幅安となった。
- 需要の質的転換――高級EVは販売が伸び悩む一方、低価格モデルが台頭しており、IEAは「普及期の扉が開いた」と分析する。
筆者考察:価格急落はメーカーのマージンを圧迫するが
蓄電池や二輪など新アプリケーションの経済性を一気に引き上げ
市場裾野を拡大する“普及促進装置”でもある。
## 技術:改良型LiBと全固体の二段ロケット
- CATLは670 GWh体制を2025年までに構築し、LFP高速充電セル「神行」を量産する。
- BYDは第2世代Blade電池でエネルギー密度+30%・8C充電を実装し2025年の全車種投入を宣言した。
- パナソニックは米カンザス工場で4680セルを初期30 GWh→最終88 GWhへ拡張予定である。
- 全固体電池はトヨタ・Samsung SDI・LG Energy Solutionが2026–27年量産を掲げるが、界面抵抗と歩留まりが課題として残る。
筆者考察:2020年代後半は「改良型LiB+シリコン負極」が量産の現実解となり
全固体はまずプレミアム車・航空宇宙で部分投入されるシナリオが濃厚である。
循環経済:規制と補助金が“再生材ゴールドラッシュ”を牽引
- 日本のJ-Cycleは2024年9月にブラックマス年産2万t工場を稼働予定である。
- 米Redwood MaterialsはDOEから2 billion USDのローンコミットを獲得し年100 GWh相当の正極材を供給へ。
- EU電池規則はリサイクル含有率義務と「デジタルバッテリーパスポート」を組み合わせ、域内販売を実質的に統制する。
- 木材マッケンジーは対中関税25%が2026年から発動すればモジュールコストが最大25%上振れすると警告する。
筆者考察:補助金と規制が同時発動する現在は
再生材とトレーサビリティを早期に押さえた企業がコストと市場アクセス両面で優位に立つ。
企業戦略と2030年シナリオ
ケース | EV販売 | 電池需要 | 平均価格 | 主導企業 |
---|---|---|---|---|
強気 | 4,000万台 | 4.5 TWh | 70 $/kWh | CATL・BYD中心 |
中立 | 3,300万台 | 3.7 TWh | 90 $/kWh | CATL+地域連合 |
弱気 | 2,600万台 | 3.0 TWh | 120 $/kWh | 地域最安型+補助金依存 |
Wood Mackenzieは関税と資本コスト次第で価格カーブが25%変動し得ると指摘する。
筆者考察:CATLやBYDのTWh級×垂直統合モデルと
パナソニックの高付加価値ニッチモデルが二極支配を形成する。
弱気シナリオでは中小メーカーの再編・撤退が加速し
リサイクル内製化を持たないOEMは調達難に陥る。
行動指針――読者への提案
- 調達・投資判断は“再生材比率”を最優先指標にする。規制強化で再生材不足がコストリスクとなる。
- 技術ロードマップは“シリコン負極→全固体”の二段階で描く。全固体の量産遅延に備え、現行ラインでシリコン化を進めるべきである。
- 為替・関税・金属相場ヘッジを複合運用する。1 $/kWhの変動が数十億円の粗利に直結する。
- バッテリーパスポート準拠のデータ基盤を早期に整備する。未整備では入札・資金調達に不利である。
最終所感
LiB業界は価格破壊と規制ラッシュが同時進行する“ジェットコースター経済”である。
だが視点を変えれば、低価格化と循環経済はカーボンニュートラルを加速させる歴史的チャンスでもある。
「低コスト×再生材×高速充電」という三位一体の潮流を捉え
2030年までに“脱炭素の背骨”を築ける企業こそ次の覇者となる。
読者が投資家であれ、技術者であれ、今こそ市場のボラティリティを恐れず“次の一手”を具体化すべきである。
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