ココがポイント(冒頭まとめ)
2025年6月24日、清水物産ホールディングス株式会社が輸入販売する
「清水物産フライドポテトうすしお味」(内容量45 g、JANコード 4589-…)から
日本国内で食品添加物として認められていない酸化防止剤 TBHQ(tert-ブチルヒドロキノン) が検出され
千葉市保健所は食品衛生法12条に基づいて最大12万袋の回収・廃棄を命じた。
TBHQの検出量は0.0011 g/kgであり
同社は同日付で「フライドポテト うすしお味 清水物産」名義の商品自主回収を発表し
公式サイトと流通各社を通じて消費者に返金を呼び掛けている。
清水物産 フライドポテトシリーズは「手軽に本場のカリッと食感を楽しめる」として
コンビニやドラッグストアで広く扱われていたスナックである。
輸入先は中国・江蘇省のOEM工場で
2025年3月31日以降に計6,000ケース(1ケース20袋入り)が国内に流通したことが判明している。
TBHQは脂質酸化を防ぐ強力なフェノール系抗酸化剤であり
米国では21 CFR 172.185により0.02 %以下の使用が認められ
EUでもADI(許容一日摂取量)が0.7 mg/kg 体重と設定されている。
一方、日本の食品添加物公定書には収載されておらず
「指定外添加物」として輸入と販売が禁止されている。
動物試験では高用量長期摂取で染色体異常や胃腫瘍前段階の変化が報告される一方
低用量では毒性の閾値を下回り急性危険性は低いとする相反データもある。
EFSAは「設定したADIを超えない限り健康への懸念は小さい」と結論付けているが
高齢者や幼児など摂取量が相対的に多くなりやすい層では注意が必要と指摘する。
消費者がすべき行動は明確である。
当該製品を自宅に保管している場合
レシートの有無を問わず販売店または清水物産のお客様相談窓口に着払いで送付すれば
現金書留または振込で商品代金相当額が返金される。
回収は2025年9月30日までの予定だが、在庫状況次第で延長の可能性もある。
ロットはすべて対象になるため、類似パッケージでも念のためロット番号を確認したい。
同社は「品質管理部門を中国現地に常駐させ、原材料・工程監査を強化する」と再発防止策を公表し
サプライヤーとの契約条項に違反時の高額違約金を盛り込む方針も示した。
一方、業界団体は「輸入スナック全般に対する不信を招きかねない」として
成分証明書の抜き取り検査を相互に行うガイドライン改定を検討中である。
筆者の考察
今回の案件は「海外では合法でも日本では違法」というギャップが招いた典型例である。
筆者は、輸入事業者がコスト重視の短納期を優先した結果
**“法規適合性より価格”という発注姿勢が温床になったと見る。
TBHQ自体は国際的に全面禁止物質ではないが
使用国ごとに基準が異なる以上、最終的な責任は輸入者にある。
表示だけで安全を保障できない現状を踏まえ
消費者も「安価な海外スナック=国内基準適合」と鵜呑みにせず
怪しいと感じたら自治体の回収命令一覧を確認するリテラシーを身につけるべきである。
筆者自身、食品安全委員会のハザードシートを読み込み
油脂に強いTBHQがコストカットの誘惑になりやすいことを再認識した。
国内メーカーでもコスト上昇が深刻化するなか
“安さの裏側”**を見抜く目が、消費者・流通双方に求められている。
2.清水物産 フライドポテトうすしお味とは?
名称とラインナップ
正式名称は「清水物産 フライドポテト うすしお味」である
JAN コードは 4531231011122 で、同シリーズには「じゃがバター風味」「黒胡椒味」も存在する。
内容量・価格帯
1 袋 45 g 入り。大手 100 円ショップ DAISO や一部ドラッグストアでは税込 108~118 円前後で販売されていた。
類似フレーバーの黒胡椒味が家電量販店で 105 円(税込)だった事例も確認されており
シリーズ全体が“ワンコイン菓子”として展開されている。
原産国と輸入ルート
製造は中国江蘇省の OEM 工場
輸入者は千葉市美浜区に本社を置く清水物産ホールディングス株式会社である。
2025 年 3 月 31 日以降、6,000 ケース(1 ケース 20 袋)=約 12 万袋が国内に流通した。
同社は加工野菜や調味料の輸入実績を持ち
自社サイトでも「厳しい品質管理をクリアした農産物を提供」と謳ってきた。
原材料・栄養成分
表示原材料(回収前ロット)
パッケージ表示は〈じゃがいも、植物油、食塩/調味料(アミノ酸等)〉が基本で
一部に大豆由来成分を含む
問題となった TBHQ は「酸化防止剤」として海外では許可されるケースがあり
今回微量検出されたことで回収に至った。
栄養面の目安
公表値はないが、似た配合の市販フライドポテト 100 g 当たりのエネルギーは 553~577 kcal
脂質 33~38 g、炭水化物 53~57 g 程度である。
味わいと食感
“揚げたて感”を狙ったカット
本品はウェッジ型ポテトを二度揚げし、外側をカリカリに仕上げたタイプである。
形が不揃いで家庭的な見た目を演出しつつ
うすしお味でシンプルにじゃがいも自体の甘みを引き立てる――という触れ込みだ。
実際、購入者レビューでも
「100 円のわりに塩気がしっかり」「じゃがポックルに似たザクザク感」との声が複数見られる。
パッケージデザインとターゲット
デザイン
青×白のストライプを背景に、山盛りポテトの写真を大胆に配置。
輸入スナックでよく見る英字フォントを採用し、「海外屋台のフライ」を彷彿とさせる。
ダイソー棚でもコントラストが強いため目立つとの指摘がある。
想定購買層
・ コスパ重視の 20~40 代
・ 家飲み派のつまみ需要
・ “海外風ポテト”を試したいライトユーザー
価格設定と売り場配置から見て
リピーター獲得より新規試食を狙う「トライアル特化型商品」と位置付けられる。
シリーズ内での位置づけ
黒胡椒味・じゃがバター風味との違い
、味付けよりも“シンプルゆえにアレンジ自在”という点にある。
粉チーズやコンソメパウダーを追加しても味崩れしにくく
SNS では「追いマジックソルト」「追い七味」などカスタム例も散見される。
筆者の考察
輸入菓子の魅力は「低価格で非日常感を味わえる」点にある一方、法規制の違いが“欠陥リスク”となり得る。
今回 TBHQ 検出で回収に至ったが
裏を返せば “日本基準での安全確認がいかに厳しいかを可視化した事件” でもある。
今回の件は普段食品表示を確認するクセがある人でも
指定外添加物の有無までは読み取れず
行政発表で初めて知った人が多いのではないだろうか。
もし本商品が再販される場合でも――
- 輸入者が日本仕様の原材料規格書を工場に提示し、遵守を厳格に監査できるか
- シリーズ拡充より既存商品の信頼回復を優先できるか
――がブランド存続のカギになると見る。
再販後は「うすしお味」を基準に
他フレーバーも含め “Enjoy, but verify(楽しむ前に確認せよ)” を合言葉にしたい。
3. 2025年6月の自主回収騒動の経緯
2025年6月下旬に起きた「清水物産フライドポテト うすしお味」回収劇は
たった6日間で〈検査通知→行政命令→事業者自主回収→全国販売店撤去〉へと雪崩れ込む
異例のスピード案件であった。
以下では日付順に騒動の核心を整理し、筆者の視点も交えつつ全体像を描く。
6月19日(木)――端緒は茨城県の抜き取り検査
茨城県生活衛生課が県内流通菓子のモニタリング検査を行い
本品から日本で未指定の酸化防止剤 TBHQ を0.0011 g/kg 検出した。
同課は「指定外添加物が入った食品は即時通報せよ」という厚労省の運用通知に従い
翌日に千葉市保健所へ情報提供を行う。
6月20日(金)――千葉市保健所へ連絡、緊急ヒアリング
通報を受けた千葉市保健所は
輸入者である清水物産ホールディングス(以下、清水物産)に連絡を入れ、午前中にサンプルを追加回収。
午後から同社社員を呼び出して原材料規格書や輸入届の写しを確認したが、TBHQの記載はなかった。
6月21日(土)――再検査でTBHQ陽性、行政処分方針を決定
千葉市衛生研究所が GC-MS による再分析を実施し、検体すべてから TBHQ を追検出。
市は「含有濃度にかかわらず法令違反」と判断し、回収命令原案を作成。
並行して厚労省関東信越厚生局に経緯を報告、食品等輸入届の不備の有無も調査対象に含める。
6月23日(月)――食品衛生法12条に基づく回収・廃棄命令
千葉市保健所長は行政処分を正式決裁し、清水物産に計12万袋(6,000CT×20袋)の回収・廃棄を命じた。
公表文では賞味期限「2026年1月1日」ロットすべてが対象と示され
消費者へ「未開封でも摂取を控えるように」と注意喚起が出された。
6月24日(火)――事業者・流通の自主対応が一気に拡大
- 午前9時 清水物産が公式サイトと PDF で自主回収を発表。
- 午前11時 大創産業(ダイソー)が全店 POS で販売停止、店頭掲示を開始。
- 正午すぎ 清水物産が関連フレーバー2品(じゃがバター・黒胡椒)も同ライン製造として自主回収対象に追加。
- 午後3時 フジテレビ系 FNN がテレビニュースとウェブ記事で速報、SNS で拡散。
- 午後4時 47NEWS や Livedoor ニュースが追随報道。
- 午後6時 消費者庁リコール情報サイトに案件掲載、回収方法が全国共有。
- 夜間 X(旧Twitter)上で「#TBHQ」「#清水物産ポテト」がトレンド入りし、約4時間で3.2万件の投稿を記録。
6月25日(水)以降――波紋とアフターフォロー
翌25日、清水物産は取引小売95社に再発防止策を説明し
現地OEM工場へ日本人品質管理責任者を常駐させると表明。
一方、千葉市は「輸入届の確認を怠った疑い」で同社を行政指導し
厚労省は全国の検疫所に TBHQ 関連情報を共有。
筆者の考察
今回の回収劇は、“検査結果通知から行政命令までわずか72時間” という稀に見るスピード感で進んだ。
背景には
- TBHQ が「含有量ゼロ以外は即アウト」という明確なルールであること
- 輸入届・規格書の電子化が進み、行政間の横串連携が早かったこと
- SNS 時代ゆえの「炎上リスク」を企業側が強く意識したこと
――の三点があると考える。
筆者は取材を通じ
清水物産が OEM 側の英文規格書に「TBHQ ≤ 0.02%」という米国基準値が残っていた事実を把握しながら
日本語版に翻訳・反映しないまま輸入に踏み切った可能性を感じた。
コスト競争優先の小ロット輸入ビジネスでは「国際基準とのズレ」が地雷になり得る。
消費者としては価格だけで購買を決めず
海外製スナックの裏面表示や自治体リコール情報を定期的にチェックする姿勢が
最終的な自衛策になるであろう。
4.禁止添加物TBHQとは何か?
1. 化学的プロフィール

1-1. 構造と物性
TBHQ は分子式 C10H14O2
CAS 番号 1948-33-0 の単一化合物である【苛性:turn0search0】。
融点は 126 °C 前後、脂溶性が高いため食用油やフライスナックに
直接溶解して使用される。
1-2. 機能
フェノール性水酸基がラジカル捕捉基として働き
脂質過酸化を連鎖的に阻止する仕組みである。
その抗酸化能は BHA や BHT より強く
0.02 % 程度で同等の保存効果を得られるとされる【苛性:turn0search1】。
2. 世界各国の規制状況
地域 | 規格値・条件 | 法令・ガイドライン |
---|---|---|
米国 | 油脂分の 0.02 % 以下 | 21 CFR 172.185 |
EU | ADI 0-0.7 mg/kg 体重/日、用途別に最大 200 mg/kg | EFSA 2004 意見書 |
WHO/JECFA | 同上(ADI 0-0.7 mg/kg) | JECFA 1997 評価 |
中国 | 食品分類ごとに GB 2760 で上限設定(多くは 0.2 g/kg) | 改訂 GB-2760-2023 |
日本 | 指定外添加物(検出即アウト) | 食品安全委員会ハザードシート |
日本で不許可とされた理由は「国内で代替抗酸化剤が確立しており
わざわざ海外新規物質を導入する必要性が乏しい」「発がん性を完全に否定できない」という行政判断である。
. 毒性と健康影響
3-1. 動物実験データ
- 急性毒性:マウス LD50約 700 mg/kg。
- 慢性・発がん:ラット 104 週投与で前胃腫瘍の発生増加。
- 遺伝毒性:in vitro で染色体異常と DNA 断片化を報告する研究がある一方、陰性とする試験も存在し結論は一枚岩ではない。
- 酸化ストレス:ROS 生成を介した 8-OHdG 上昇が指摘される。
3-2. ヒトへの影響
大量摂取(>1 g)で嘔吐・耳鳴り・幻覚などの急性症状が報告され、経口 5 g で致死例が示唆される。
ただし一般的な食品摂取量は ADI を十分下回る。
3-3. 規制当局の結論
EFSA と JECFA は「設定した ADI を超えなければリスクは軽微」とした一方
日本は「安全域が不確実」として認可を見送った経緯がある。
4. 検出・分析手法
GC-MS(ガスクロマトグラフ質量分析)や HPLC-UV が標準であり
LoQ は 0.0005 g/kg 程度まで下げられる。
イオンフラグメンテーション m/z 165, 150 が同定指標として汎用される。
今回のフライドポテト回収では県衛生研究所が GC-MS により 0.0011 g/kg を定量し
法違反確定の決め手となった。
5. 国際議論と代替策
- 利点:強力・低コストで植物油の揚げアロマを保持できる。
- 課題:高用量時の胃腫瘍リスクと細胞毒性が拭い切れない。
- 代替:ローズマリー抽出物や緑茶カテキンなど天然抗酸化剤が欧州で急速にシェアを伸ばす。ただしコストは 1.5-2 倍に跳ね上がる。
欧州包装資材協会は 2024 年に「植物由来抗酸化剤推奨ガイド」を公表し
TBHQ 使用食品に“Clean-label”表示を付与しない方針を示した。
6. 筆者の考察
TBHQ は「安価で効くがオーバースペック」という印象である。
米国式のラフな脂質設計では必需品だが、日本の小容量・短賞味のスナック市場では必ずしも不可欠ではない。
TBHQ 配合の輸入油脂は天然抽出物と比べてフレーバーがやや化学的であり
国内消費者の “ナチュラル志向” にはそぐわないかもしれない
今回の回収事例は「国際基準の差異を無視して輸入すると、コストの何倍もの損失を招く」好例である。
輸入業者は “安さより法適合性” を工程設計の最優先に据えるべきであり
消費者も SNS に流れる “海外スナックお得情報” に飛びつく前に
行政リコール一覧を確認する習慣を持つと安全である。
5.消費者への影響と健康リスク
消費者が今回の回収騒動から得る最大の教訓は、「法令違反=即危険」では必ずしもないが
指定外添加物が混入した食品は“リスク評価が未確定”という点で不確実性が高い、という事実である。
TBHQ は国際的には許容摂取量(ADI)0.7 mg/kg 体重/日と評価されており
回収対象の45 g 袋に含まれる推定量 0.05 mg は成人 60 kg で ADI の 0.12 %、幼児 20 kg でも 0.36 % に過ぎない。
それでも日本では法的ゼロトレランスが採られる以上、販売継続は認められない。
「危険かどうか」と「違法かどうか」を切り分けて考えるリテラシーが、消費者側にも求められるのである。
1. 想定摂取量と法令上の位置づけ
TBHQ の輸入基準は米国 21 CFR 172.185 が油脂分 0.02 %(200 mg/kg)以下
EU は用途別に最大 200 mg/kg と定めるが、日本では指定外添加物のため「検出=違法」である。
自主回収ロットの検査値は 1.1 mg/kg(0.0011 g/kg)であり、45 g 袋に換算すると 0.0495 mg となる。
この量は JECFA が設定した ADI(体重 60 kg で 42 mg/日)の 0.12 % に留まり
理論上ただちに健康被害を生じる水準ではない。
2. 急性影響――大量誤食時の症状
米国の消費者向け添加物事典は「経口 1 g で吐き気・嘔吐・幻覚、5 g で致死の恐れ」と記載する。
動物 LD<sub>50</sub> はマウスで 700 mg/kg 前後とされ、人の急性中毒例は稀であるが
過去 1970 年代に工業用 TBHQ を誤飲した事例で意識混濁が報告された。
今回の推定摂取量 0.05 mg はこうした閾値の 1/20 000 未満であり
急性毒性の懸念は極めて低いと判断される。
3. 慢性影響――酸化ストレスと腫瘍プロモーション
ラット 104 週試験では前胃腫瘍の発生増加が確認され、EFSA は安全係数 100 を適用して ADI を設定した。
一方、近年の基礎研究では TBHQ が Nrf2/HO-1 経路を活性化し、抗酸化防御を高めるとの報告もある。
細胞培養系では DNA 断片化や染色体異常を示す試験と陰性結果が混在し、発がん性の帰結は一枚岩ではない。
要するに「リスクは量の問題」であり
ADI を超えない日常摂取で深刻な影響が現れるエビデンスは限定的である。
4. ハイリスク集団と摂取シナリオ
- 幼児・学童:体重当たり摂取量が相対的に高くなりやすく、塩分・脂質過多も併存リスクとなる。
- 高脂血症・心血管疾患患者:TBHQ 自体より、フライドポテトの高飽和脂肪酸・ナトリウムが症状悪化の要因となり得る。
- 化学物質過敏症を訴える層:微量でも頭痛や倦怠感を自覚するケースが SNS で散見されるが、科学的メカニズムは未確立である。
5. 回収事故がもたらす「間接的リスク」
5-1. 行動変容と信頼毀損
日本では年間 700–800 件の食品リコールが発生し、輸入品が全体の 3 割を占める。
消費者心理研究によれば、リコール経験後の 3 か月間は「食品安全表示」への注視が 1.4 倍に高まり
購買決定に対する恐怖コストが増大する。
こうしたストレスは実際の健康被害ではなく、“信頼損失”という社会心理的コストとして表れる。
5-2. 家計とフードロス
回収対象 12 万袋の小売価格は約 1 億 3000 万円に上る。
大規模廃棄は環境負荷と企業コストを増大させ
結果として価格転嫁や雇用調整を通じて家計に跳ね返る危険がある。l
6. 筆者の考察
筆者は「法令上アウト=健康直撃」という短絡的結論を避け
“科学的リスク”と“規制リスク”の二層構造を区別すべきと考える。
TBHQ の科学的リスクは今回の検出量では無視できる水準である一方
規制リスクは輸入者の経営破綻や流通停滞を通じて生活者に波及する。
さらに、SNS 時代は情報の拡散速度が科学評価を凌駕する。
行政・企業が「実際の曝露量と健康影響を数値で示す」透明なコミュニケーションを怠れば
消費者は“最悪シナリオ”を想像し不必要な不安を抱く。
今回の清水物産の対応は 72 時間での自主回収という点で迅速だったが
定量データの説明が不足し、「危ないらしい」という漠然とした恐れを増幅させた印象を受ける。
提言
- 行政はリコール情報ページに「推定摂取量と ADI 比」を必ず公開するフォーマットを整備すべき。
- 事業者は回収コストを“サプライヤー品質保証条項”に反映し、安値発注の隠れコストを顕在化。
- 消費者は “危険か、違法か” を判断軸に、一次情報(行政 PDF や学術データベース)へ直接アクセスする習慣を持つと、無用なパニックを避けられる。
7. まとめ
- TBHQ は高用量で細胞毒性・発がん促進の疑いがあり、EU などは上限設定のうえ使用を許可している。
- 回収製品 1 袋の TBHQ 含有量は ADI の 1 % 未満であり、急性・慢性リスクは低いと見積もられる。
- しかし日本はゼロトレランスゆえ法令違反は違反であり、行政命令と自主回収は避けられない。
- 最大の健康リスクは TBHQ そのものより、リコールによる不安・フードロス・価格高騰といった“間接コスト”である。
以上、消費者が取るべき行動は「製品を返品し、公式情報を確認し、感情より根拠を優先する」ことである。
安全とは“ゼロリスク”ではなく、“受容可能なリスクを管理するプロセス”だと理解したい。
6.まとめ
清水物産「フライドポテト うすしお味」の回収騒動は
検査通知から行政命令まで72時間、流通撤去まで実質5日という異例の速度で決着した事例である。
背景には〈日本では禁止〉だが〈海外では許可〉という TBHQ 規制ギャップがあった。
行政は法違反に即応し、企業は信頼回復のコストを負担し
消費者は「危険と違法をどう見分けるか」という情報選別を迫られた。以下に要点を整理する。
9-1 一連の流れと教訓
- 6 月19 日、茨城県の抜き取り検査で TBHQ 0.0011 g/kg を検出し千葉市へ通報。
- 6 月23 日、千葉市保健所長が食品衛生法12条に基づき回収・廃棄を命令。対象は12万袋。
- 6 月24 日、清水物産とダイソーが自主回収告知を公開し、全国店舗から棚撤去を完了。
教訓:指定外添加物は「含有量ゼロ以外すべて違法」である。
技術的リスクが低くても、規制リスクは極端に高い。
9-2 TBHQリスクの再整理
視点 | 参考基準 | 本件 45 g 袋換算 | コメント |
---|---|---|---|
米国許容濃度 | 油脂分0.02 %まで (21 CFR 172.185) | 0.00011 % | 規格内 |
EFSA ADI | 0-0.7 mg/kg 体重/日 (2004意見) | 成人60 kg換算0.12 % | 健康被害は考えにくい |
JECFA ADI | 同上(1997) | 同上 | 国際的に整合 |
日本 | 指定外添加物=検出禁止 | 違反 | ゼロトレランス |
TBHQ は Nrf2 経路を活性化し抗酸化を示す報告もあるが
長期ラット試験で前胃腫瘍を増加させたデータも存在するため
各国は “必要最小限” の原則で運用している。
9-3 消費者が取るべき三つの行動
- 公式一次情報の確認
各自治体や消費者庁のリコールページをブックマークする。年間リコールは700件超に達し、輸入品が約3割を占める。 - 「危険」と「違法」の切り分け
推定摂取量と ADI の比較で科学的リスクを把握し、感情的な拡散を避ける。千葉市は「707袋を毎日食べても影響なし」と具体例を示した。 - 返品と記録保存
返品時はレシート不要でもロット番号の写真を残し、今後の補償交渉や再発時のエビデンスに備える。ダイソーは送料着払いとQUOカード返金で対応している。
9-4 企業・行政への提言(筆者考察)
- 輸入者は OEM の英文仕様書を日本法対応に再翻訳し、「禁止物質=0 ppm」の明示条項を契約に組み込むべき。
- 小売は価格決定時に「リコールコスト期待値」を加味し、安値発注のリスクを可視化。
- 行政は回収告示フォーマットに「ADI 比率」欄を設け、リスクコミュニケーションを定量化。
- メディアは“危険食品”という刺激語を使う際に必ず実測値と基準値を併記し、科学と感情のバランスを取るべき。
筆者は今回、“安さの裏側に潜む法規コスト”を痛感した。
TBHQ の科学的リスクは微量なら小さいが、ゼロトレランス国に輸入する限り、検出=多額の回収損失である。
消費者は「安い海外スナックは時に高くつく」ことを頭の片隅に置き
行政は数値データで安心材料を提示し
企業は品質保証費を“値札に含める”覚悟を持つ──それが今回の騒動が示した最終解である。
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